給与に関する求人詐欺の手口
日本でも諸手当の定義が、契約上支払いが確約された性質か、あくまで酌量として、支払うか否かは資本家の裁量に託された性質の手当かは軽視できない。その手当が確約されたものか?酌量によるものかの峻別は求人段階で見極めるべきである。もちろん、後出しや後のすり替えという手口もあるが、どれも求人詐欺である。求人詐欺とは、入社後の時期における詐欺も指す。なぜならば、それは、契約の信頼条項に反するからである。よく見れば、雇用契約は資本家側が一方的に労働者の側の非で信頼を云々する独善的な論体と条項があるが(あくまで雇用関係の資本家側の文書は自らの側の非の存在や可能性を否定し、その可能性をもっぱら労働者の側に懲罰条項をチラつかせて書くスタイルで一貫している)、これは労働者の側からその雇用主側の詐欺を糾弾することを排除しない。
固定残業代は、日本では、ブラック企業の確かな表徴であり、面接時の公約した給与額が実は基本給(本給などとも称する)と固定残業代、さらには後者の裁量に任されたボーナス手当などに細分化され公約額をいつの間にか労働者の想定に反してこのように詐欺的に改悪する求人詐欺をするケースが後を絶たない。しかも、労働者達は本給、基本給が面接時の公約の給与額だと信じ込まされ、ここで詐欺に遭う。こうした、広告求人での給与額の表示における詐欺行為の手口は、香港でも給与の基本給と様々な名称の諸手当への分解においても存在している。
香港には固定残業代はあるか?
香港のブラック企業は、日系企業だけでも470社以上がブラック士業の労務コンサルティング会社の影響下にある。まず給与のうち、基本給を極限まで引き下げておき、あとの部分は資本家自身の裁量による手当の項目に分類する。この提示する給与総額の詐欺行為で、将来の解雇予告手当金や、休日労働賃金、長期勤務手当などの法的義務のある賃金支払い額を引き下げようとする。
香港では、真の手当、つまり雇用主の酌量によると規定された何とか手当の類は、事実上福利厚生の計算には包括しないのが正道である。つまり、その何とか手当や何とか報酬という各社の造語群の峻別(酌量か?確約か?)が不可欠である。
香港では固定残業代は、その名称では存在していないが、元々の給与に残業分も全て含まれていたという主張は多くの出張時の休日賃金未払いなどの紛争で存在している。これは、固定残業代と同様の論理である。後から、全て残業分も元々の給与に含まれているという主張は常套文句なので注意。日本以上のブラック士業のやり放題である。
固定残業代は、現在の日本の手口の傾向では、基本給と固定残業代と区別して提示していても、さらに他の名称の諸手当が実は、実質的に固定残業代であり、何重にも固定残業代制で縛られ、最終的には、時給計算でその産業もしくは全体の最低賃金を割る。そして、残業をすればするほど、固定残業代の労働者はますます安くなっていく。つまり、固定残業代とは、残業代法制を脱法し、残業代を支払っている法的体裁で、残業代ゼロを達成する詐術なのである。
もちろん、固定残業代は、残業代計算の方便のためというのは全くの虚偽であり、残業代をゼロにする詐術である。実は、当初約束したはずの給与総額が基本給でなくてはおかしいのだ。
香港の賃金の概念規定
雇傭条例第2条では、賃金とは被雇用者がその雇用契約に基づいて行うあるいは行うであろう仕事に対して、金銭形式で表示できるすべての報酬、収入、手当、お小遣いの類であり、名称や計算方法を問わずに含まれる。例えば、交通費、勤労手当、勤労ボーナス、残業代なども含まれる。しかし、仕事上の立て替え金は含まれない。
賃金は、経営側の曖昧用語である給与よりも正確で、労働者側の用語である。香港でも賃金は、雇用主が金銭形式で被雇用者がしたあるいはこれからする仕事に対して支払う全ての報酬、収入、手当(交通手当、勤労手当、ボーナス、残業代も包括)そしてチップ、サービス料などが、企業ごとの異なる造語、企業内しか通用しない名称やら計算方法にかかわらず賃金である。
賃金とは、被雇用者の労働に対する等価ではない搾取された報酬であり、それはチップの類も含むが、賞贈与の性質や資本家の裁量によるいかなる支払い(本来のなんとか手当の類)も含まれない。
以下の7点は賃金には含まれない。
1、雇用主が提供する住居、教育、食物、燃料、水、電気、医療などの価値は含まれない。
2、雇用主が被雇用者の退職金の積み立てで支払う額。
3、あくまで雇用主の贈与賞与性質、あるいは酌量によるボーナス、勤労手当、勤労賞与などは、賃金に含まれない。
4、常時とは異なる交通費手当、いかなる交通に特別に金銭的便宜を図る際の価値あるいは、労働者が仕事が原因で生じた交通費の実際の費用は賃金とは別の概念である。
5、被雇用者が、立て替えて支払った額で、雇用主が支払うべきもの。
6、年末の報酬、あるいは贈与賞与の性質の、雇用主が酌量、裁量で支払いを決めるボーナス。つまり、贈与賞与の、雇用主の裁量次第で支払いを決める類のボーナス、報酬は賃金に含まれない。
7、雇用契約を完了あるいは破棄する場合の支払い金。
wages (工資), subject to subsections (2) and (3), means all remuneration, earnings, allowances including travelling allowances and attendance allowances, attendance bonus, commission, overtime pay, tips and service charges, however designated or calculated, capable of being expressed in terms of money, payable to an employee in respect of work done or to be done under his contract of employment, but does not include—
(Amended 48 of 1984 s. 2; 76 of 1985 s. 2; 74 of 1997 s. 3)
(a)
the value of any accommodation, education, food, fuel, light, medical care or water provided by the employer;
(b)
any contribution paid by the employer on his own account to any retirement scheme;
(Amended 41 of 1990 s. 2)
(c)
any commission which is of a gratuitous nature or which is payable only at the discretion of the employer;
(Replaced 74 of 1997 s. 3)
(ca)
any attendance allowance or attendance bonus which is of a gratuitous nature or which is payable only at the discretion of the employer;
(Added 74 of 1997 s. 3)
(cb)
any travelling allowance which is of a non-recurrent nature;
(Added 74 of 1997 s. 3)
(cc)
any travelling allowance payable to the employee to defray actual expenses incurred by him by the nature of his employment;
(Added 74 of 1997 s. 3)
(cd)
the value of any travelling concession;
(Added 74 of 1997 s. 3)
(d)
any sum payable to the employee to defray special expenses incurred by him by the nature of his employment;
(da)
any end of year payment, or any proportion thereof, which is payable under Part IIA;
(Added 48 of 1984 s. 2)
(e)
any gratuity payable on completion or termination of a contract of employment; or
(f)
any annual bonus, or any proportion thereof, which is of a gratuitous nature or which is payable only at the discretion of the employer
勤労手当は、賃金か?
香港の賃金問題は、まずその雇用形態がフリーランスではなく、418ルールに満たない水準ものかといった大前提の問題をクリアした上で、雇用が連続した契約である場合は、年末報酬、産休給与、遺散費、長期服務金、治療手当、休暇給与、年休給与、予告手当などは、上記の賃金定義から賃金には該当しない。ただし、残業代が固定した性質を持たず、一年以内の平均額が、同時期の平均月給の20%以下であれば、残業代を賃金の範疇に含めないという特殊な規定がある。
また、2007年7月13日から遣散費、長期服務金以外の法定権益の計算方法はすべて12ヶ月の平均賃金で計算する。平均賃金を計算する際に、計算に含めない期間と賃金を除外して計算する。計算に含めない期間とは雇用条例で定められた期間、雇員補償条例(雇用人員を補償する条例)及び雇用主が同意して取得した期間で、この期間労働者が部分または全部の賃金を得ない期間である。
無遅刻無欠勤などある条件を達せしさえすれば支払われるという客観的条件に基づいて支払われる手当としては、賃金に含まれる。この場合、資本家の主観的裁量、願望による支払いではないからである。
判例法理:Star Express Limited v Cheng Tak, Ng Keung, Kung Kin Sang, Fok Chiu Man and Yeung Shui Keung (LTA 86/1998)
旅行バスの駐車料が定額で会社より支給される場合、例え領収書不要でもこの性質が賃金ではなく、立て替えの清算の範疇に入る雑費として判例法理が確定している。このほか、他の副業兼業の収入は、それがフェリー乗船員、タクシー運転手が車上販売をする類では本来の仕事内容とは別の収入なので、その本来の仕事の賃金には含まれない。また、立て替え性質ではない住居手当は、雇用主の裁量権で支給される類ではなく、賃金の概念に妥当する。この手のトラブルでは、資本家が借家の領収書を請求し、その通りに支払わないケースがあるが、住居手当は立て替えでない場合、賃金になる。
結論
香港においては、チップの類も賃金になるが、副業兼業収入と立て替え(reimbursement)は当然当該労働の賃金には含まれない。手当が、契約上客観的に支払いが確約された性質か、それとも資本家の裁量(discretionary)による支払いの性質かを分別する必要性がある。この点が、香港の賃金慣行上の特色であり、香港における賃労働の基本的な観点の一つである。給与額の詐欺はまさにここに潜んでいる。月別額面金額と年俸制の額面金額が実はこの二つに細分化されて少ない基本額が後出しされないか、日本でも注意が必要である。
労働者はもし、1ヶ月を超えても賃金がなお支払われない場合、雇用主に解雇されたとみなして雇用主は予告手当とその他の解雇補償をし払わなければならない。
香港労働問題研究論考30章
(以下リンクより各論考へ)
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香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項
1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。
2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。
3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。
References
1.《勞資審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK
2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm
3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm
4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en
5.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap338
6.Cap. 347 LIMITATION ORDINANCE https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap347!en?INDEX_CS=N
7.Cap. 149 General Holidays Ordinance https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap149
8.判例集 https://www.elegislation.gov.hk
雇用条例の全文は、以下の二つのリンクが有用である。日本語は、完訳済みである。
English: https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap57
Chinese: https://www.labour.gov.hk/tc/public/ConciseGuide.htm
Statements
This series of articles about HK labor issues is written by Japanese due to supporting Japanese workers in Hong Kong where differs from Japanese working environment. Moreover, there is no labor consultant for Japanese workers in Hong Kong while facing blood sucking Japanese recruit agents and overseas Japanese 'Black Kigyo' (Evil Companies).
Any part of this report may be disseminated without permission, provided attribution to Ryota Nakanishi as author and a link to www.ryotanakanishi.com is provided.
注意:香港には、日本人のための労働相談所はない。また、総じて労働問題対策の出版物は皆無に等しい。日本語だけでは、極めて危険な状態である。香港でも会社の人事部、就職エージェントや企業の人事コンサルタントなどはすべて行為において資本家側であり、自分たちも労働者であるのに、むしろ労働者と敵対するので、要注意だ。会社外の労組へ相談するべきだ。香港では日本人で労働問題を論じている者がいないと言うことはできない。私は永久に労働者階級のために階級闘争を戦う。階級闘争とは、労働者の階級的利害のための一切の社会的な闘いである。
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