資本家の任意裁量権への法的規制
ボーナスの任意性に関して、香港の法律は何らかの制限を設け賞与における不平等、差別待遇を是正するべく努力をしているのか? これに関しては、判例法理が成立している。Joanne Kay Wood v Jardine Fleming Holdings Ltd. (HCA12524/1998)では、資本家が非理性的に、横暴に、反復して流動的に任意の裁量権を行使する場合に法廷が干渉するとしている。ただし、その際法廷は雇用主の観点に取って代わることはできず、賞与を支給するか否かを代わって判断するのではない。あくまで、雇用主の決定が不合理で干渉するのではなく、そのアプローチの仕方は雇用主の任意裁量権の行使が非理性的で、その他の雇用主たちでもそのように任意裁量権を行使しない場合に、干渉するとしている。
条件ありの賞与と任意の賞与を混淆した曖昧規定の問題
このボーナスの支給に関して、日本以上に香港の方が労務管理上の観点はさらに発展している。多くの資本家はボーナスを全て任意の裁量によるものと誤解しているが、実は客観的な条件ありの賞与と任意の賞与を混同しているケースが識別される。よくあるブラックなボーナス条項は、会社の業績に基づいて任意に支給されるという類の曖昧条項で、全く異なる性質のボーナスを混合している。これは、香港の法廷では、周裕貞 v The Executive Center Ltd. (HCLA85/1999) の判例法理はユニークで、日本の労働者には新鮮な観点を提供する。
法廷は、いわゆる会社の業績とは、単に事柄の状況を示しているだけで、業績のよしも悪いしも全て包括される。この会社の業績さんなるものは、思考能力がなく、それ自体で支給を判断することはできないとした。ボーナスの任意性とは、完全な主観的なものである。
任意裁量権(酌情)とは?
任意裁量権とは、独自に決定する自由と能力である。従って、会社の業績によって任意に支給するという場合は、任意のボーナスにはならない。支給しないということはできない。また、企業側の絶大な自由裁量とは業績目標の設定方法やボーナスの金額であって、この二つこそが資本家側の裁量による二大項目である。しかし、会社の業績により任意に賞与を支給すると規定するこの場合、会社の裁量は、業績目標設定方法とボーナス金額であり、業績目標を達成したら払うか払わないかではない。
ここでは、あくまで会社の業績(全体)が条件の非任意の支給であり、たとえ労働者個人のパフォーマンスが悪くても関係なく、契約済みの賞与金額が支払われる。
グループ単位の賞与の場合
一度にグループ全体に賞与を一括で与える場合、判例法理ではThomas Vincent v South China Morning Post Publishers Ltd. (CACV 253/2002) のケースで、グループ単位のボーナスにおいては、資本家はそれを支給するか否かの裁量権はあるが、支給すると決めたらグループ全員に支給しなくてはならない。
ボーナスは賃金ではない
年末報酬もボーナスも賃金と法廷的に規定されていない。もちろん、労働者たちの生み出した労働による剰余価値がその正体であるが。判例法理で、ICAP Hong Kong Limited v Elaine Chan (HCA 636/2007) では、定期的に支給されるボーナスも賃金ではなく、解約予告手当に含めて計算する必要はないと確定している。
香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項
1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。
2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。
3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。
References
1.《勞資審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK
2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm
3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm
4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en
5.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap338
6.Cap. 347 LIMITATION ORDINANCE https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap347!en?INDEX_CS=N
7.Cap. 149 General Holidays Ordinance https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap149
8.判例集 https://www.elegislation.gov.hk
雇用条例の全文は、以下の二つのリンクが有用である。日本語は、完訳済みである。
English: https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap57
Chinese: https://www.labour.gov.hk/tc/public/ConciseGuide.htm
Statements
This series of articles about HK labor issues is written by Japanese due to supporting Japanese workers in Hong Kong where differs from Japanese working environment. Moreover, there is no labor consultant for Japanese workers in Hong Kong while facing blood sucking Japanese recruit agents and overseas Japanese 'Black Kigyo' (Evil Companies).
Any part of this report may be disseminated without permission, provided attribution to Ryota Nakanishi as author and a link to www.ryotanakanishi.com is provided.
注意:香港には、日本人のための労働相談所はない。また、総じて労働問題対策の出版物は皆無に等しい。日本語だけでは、極めて危険な状態である。香港でも会社の人事部、就職エージェントや企業の人事コンサルタントなどはすべて行為において資本家側であり、自分たちも労働者であるのに、むしろ労働者と敵対するので、要注意だ。会社外の労組へ相談するべきだ。香港では日本人で労働問題を論じている者がいないと言うことはできない。私は永久に労働者階級のために階級闘争を戦う。階級闘争とは、労働者の階級的利害のための一切の社会的な闘いである。
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