香港に横行する金銭解雇
香港では、金銭解雇が存在している。日本でも実質的な運用では悪徳社労士達により実際的な運用において既に行われている。
これに関して、労使双方に契約条項に従って機械的に契約を終了し、相手に理由を与える必要性がない労務環境になっている。まず、事由が具体性に欠けていても、そもそも事由がなくても法定の賃金または通知期間で処理ができてしまう。この場合、紛争になり争われる場合に条項が初めて活きてくる。
資本家側が補償をしたがらない状況下で初めて、理由が与えられる。雇用契約書に、特定の解雇方式が明記されていない限り、資本家は、労働者の不当行為を理由にして解雇しても、法的賠償が十分であれば、労働者側は受け入れるしかないことが金銭解雇の判例法理として確定している。
それにしても、何ら補償をさらに引き出さないで、解雇同意書にサインする道理は無く(そもそも法的束縛はないのでサイン不要であり、そのまま証拠として受け取ればいい)、訴訟に道を開いたままにし、合法、非合法を含めてあくまで争う姿勢を労働者は貫くべきである。
解雇に伴う労働者側の補償には何があるか?
1、解雇予告手当の補償 (日本、香港に共通した基本的要求)
2、勤務期間が5年以上であれば長期勤務手当の補償
3、勤務期間が2年以上、解雇理由がリストラ(例:事業閉鎖、部門閉鎖)あるいは、業務停止(例:事業プロジェクトごとに雇われる件工と呼ばれる労働者に仕事が十分ない状態)であれば、遣散費と呼ばれる解雇手当の補償
4、勤務期間が2年以上、5年以下、資本家が雇傭条例第32K条の解雇に正当な理由に違反した場合、計算方式が長期勤務手当と同じ、雇用終止金を授受する権利が生じる。
ここでは、総じて2年以上の勤務が香港では長期と考えられ、解雇に対する十分人並みな補償が得られるのは最低限2年以上の勤務ということになる。また、この第4項も、使い捨てられる短期の労働者達に極めて不利である。
雇傭条例第32K条:雇傭条例上の解雇の法的に正当な理由とは?
1、被雇用者の行為 (曖昧規定)
2、雇傭された種類の仕事の能力あるいは資格 (曖昧規定)
3、リストラ対象になるか、その他の業務上の必要性 (曖昧規定)
4、雇用関係が継続するが、契約内容変更後も元の契約が変更されず、従って被雇用者か雇用者か双方が雇用条例違反になるから。(いかなる口上でも何もサインはしない原則が必須)
5、裁判官もしくは労資審裁所が十分解雇に値するか契約内容変更に値すると考えるその他の実質的理由。
32K.Reasons for the dismissal or the variation of the terms of the contract of employment
For the purposes of this Part, it shall be a valid reason for the employer to show that the dismissal of the employee or the variation of the terms of the contract of employment with the employee was by the reason of—(a)the conduct of the employee;(b)the capability or qualifications of the employee for performing work of the kind which he was employed by the employer to do;(c)the redundancy of the employee or other genuine operational requirements of the business of the employer;(d)the fact that the employee or the employer or both of them would, in relation to the employment, be in contravention of the law, if the employee were to continue in the employment of the employer or, were to so continue without that variation of the terms of his contract of employment; or(e)any other reason of substance, which, in the opinion of the court or the Labour Tribunal, was sufficient cause to warrant the dismissal of the employee or the variation of the terms of that contract of employment.
正当な理由に関する判例法理:Thomas Vincent v South China Morning Post Publications Limited (FACV 2/2005)
このケースでは、5年に到達し長期勤務手当支払い責任を回避するために労働者を解雇した場合であり、極めて重要な判例法理ができた。
1、長期勤務手当支払い責任を回避するために予め解雇した場合、雇用終止金と呼ばれる雇用契約終了手当が獲得できる。このケースでは、解雇予告手当を支払い解雇したが、さらに資本家側は敗訴し、雇用終了手当を支払っている。
2、労働者を解雇する理由は複雑で煩瑣であってはならない。
以上の解雇の正当な理由に関する準則は、相互に作用し合う。特に、後者は労働者にとり前者以上に肝要である。すなわち、解雇理由が煩雑で複雑なものは、資本家側がそれを真の理由として証明することが困難と見做されるからである。
重要:ここで、労働者は解雇に有利ないかなる言質も与えてはならない。ただ一方的な資本家側の主張に対して反対し、争う姿勢を貫くことは戦略的に正しい。資本家は、このような条項を知るがゆえに、あくまで解雇同意書や実質的に解雇に理解を示すような言質を取ろうとする。
分析:この判例法理は諸刃の剣であり、法廷は形式的に真に解雇が労働者側の行為によるか、会社の状況によるかという点を重視し、企業による解雇の評定そのものの合理性によるかに言及していない。一見、労働者に有利な面もあるようで、実は金銭解雇の判例法理である。先のCampbell Richard Blakeney-Williams and others v Cathay Pacific Airways Limited and others (FACV 13/2011)では、上訴審ではその裁決書第41段中において、当該条項の正当な理由(a)とは、労働者の行為であって、不当行為である必要はないとし、問題は解雇する理由が合理的か否かではなく、当該理由が真の理由であり、言いがかり口実ではなく、しかも煩雑ではなく解雇と関係しているか否かが問題視される。
しかし、同時にこれは解雇理由で争うことができること、正当理由としてあげている点そのものが言いがかりであり、真の理由ではないとして争う余地があることを示している。また、相手の主張の煩雑さを逆手に取ることも労働者は可能である。解雇理由が、正当理由に該当する範疇の事柄を評定が不合理であれ前提としているか、解雇理由が正当な理由の範疇に真に事実をもって該当しているかの妥当性の問題は無際限な金銭解雇の論理において曖昧である。煩雑さという点を労働者は有利に突くべきであるし、正当な理由への妥当性自体は争う余地があるものと考えることができる。ここは、法廷が無原則的に正当な理由に該当する事実を、資本家側のその主張だけで暗に認めるか否かという公正さの問題になってくる。この点が資本家に一歩的に有利に解釈されることで金銭解雇の無際限な暴力が法的に正当化され、労働問題における最も不合理で反民主的な機制が社会的に確立される。
対処法:香港では、まず、労働者が解雇問題を法廷に持ち込み問題を公開することから資本家側への抗議が始まる。これは、公開の場で法の審査を受けさせ、可能な限り資本家側にダメージを与える上でも必要といえる。問題を公開することは、他の労働者にとっても重要な社会的利益となる。そして、香港では解雇無効法令は法廷において双方が合意した場合にのみ法廷が復職命令または、雇用継続命令を出せるが、あくまで日本のように法廷が強制出来る訳ではない点が香港的である。これが多くの不当解雇の紛争を金銭補償を求める争いにしてしまっている。つまり、日本では解雇無効が補償を引き出し離職する交渉手段になるのに対して、香港では解雇無効がそのような補償の交渉材料にはならない。雇用と補償両方を得るのが望ましいが、現実的には資本家側の復職合意の意思の有無にも復職命令による解決は左右されるのが日本と異なる。
香港では、解雇予告手当による即時勤務終了の見かけの即時解雇の手段と、懲戒解雇としての即時解雇の二種類がある。
不合理性と非合法性の紛争の展開
労働者は、以下の状況において雇用主に不合理な解雇、非合法的な解雇をされたとみなして雇用主に合理的な賠償を請求できる。各自認定の規定があるので要注意。
1、不合理にも雇用契約内容を変更した場合:雇用主が労働者の同意を経ず雇用契約内容を変更した場合に、雇用主が契約書でそのような変更をすることが可能な旨を明記していないで、このような変更の目的が雇用条例上の労働者の権利、利益、保障を喪失あるいは減少させる場合、それは不合理な契約内容変更と認定される。契約内容の不合理変更と解雇及び解雇補償の問題が日本以上に密接に相関している。
2、不合理な解雇:労働者が連続した契約で24ヶ月以上(2年)雇用され解雇された場合、このような変更の目的が雇用条例上の労働者の権利、利益、保障を喪失あるいは減少させる場合、それは不合理な解雇と認定される。
3、不合理かつ非合法的な解雇:労働者はさらに以下の状況で解雇された場合、不合理かつ非合法的に解雇されたとみなされる。
a. 労働者が妊娠中に解雇された場合。
b.労働者が有給休暇中に解雇された場合。
c.労働者が労災時に解雇された場合。
d.労働者が労働組合に参加し、または労組の活動に参加して解雇された場合。
e.労働者が、政府機関が労働法例を執行し、工業関連の労災や安全規定違反に関して法的手続きを進行している際に証拠や資料を提供したことで解雇された場合。
以上の3種類のケースでは、労使双方が同意した場合に労資審裁所は雇用主に労働者の復職命令、再度雇用の命令を出したり、あるいは雇用主が雇用終止金を支払うよう命じる。
労働者は、雇用条例に基づいて、雇用終止金を受け取ることができる。これは、解雇時に未払いの法定権益全般を指す。賃金、予告手当、年末報酬、産休手当、遣散費、長期服務金、治療手当、法定休日給与、その他雇用条例及び雇用契約に基づいて享受できる額が包括される。
もし、労資審裁所でこの第3の不合理で非合法的な解雇に該当する場合、法的保障以外に、賠償金(補償金)を労働者が獲得できる。それは、復職令が出されない場合で、しかも雇用主が雇用終止金を払っているかに関わらずに、15万香港ドルを超えない額での賠償金を雇用主に命じることができる。ここには、資本に有利な上限が設定されており、再就職までの賃金支払いを命ずる日本との差異がある。
また、これ以外に稀なケースだが、雇用主が非合法的に労働者を解雇して労工所が検挙した場合、その法廷で済みが確定した場合、最高で10万香港ドルの罰金となる。
解雇問題の時効は9ヶ月
日本では、賃金に関しての時効は2年であるが、香港では半年もない。しかし、解雇に関しては解雇後9ヶ月以内に要求を出さないと、時効になってしまう。すぐに自身の属する専門業種の労働組合へ相談するべきである。
香港で労使紛争に遭った場合の基礎的な注意事項
1、もし、雇用主と労働条件で労使紛争が起きた場合、直ぐに衝動的に書面や口頭で雇用契約を終了しないこと。当然、香港の人事部はマネージメントの追随及び人事の事務処理代行の域をでない低劣さが顕著なので、まずは、労働組合や労働問題の経験ある弁護士に一定期間相談するべきである。その上でも終了はいつでもできる。人材会社の連中は、日本同様労働問題の相談相手ではない。連中は、広告主である企業の人事部の意向と方便しか一面的に顧みない。
2、もし、雇用主に解雇された場合、いかなる文書にもサインしないこと。また、何かにサインする前に、自身に不利ではないかまず内容をよく見ること。不明な点は、質問しはっきりさせ、解答が不明瞭ならばサインは拒否するべきである。つまり、理解できないものは拒否すること。下劣な香港マネージメントは手口としてあからさまな詐欺を働く場合もあり、それはサイン無効として追究する道を開く。ここで、重要なのは、サインした全ての公式、非公式の文書はコピーを要求する権利があり、コピーを渡さないならばサインしないことである。このような卑猥な資本主義の犬に屈するくらいならばサインや合意を破棄するべきである。その方が労働者の精神的利害及び社会的契約上の権利の実現と言える。日本の求人詐欺の手口は基本的に香港でも存在している。多くの多国籍企業のアジア太平洋地区の本部は香港であり、人事部が実は香港という大企業も少なくない。手口自体の共通性はここから来ている。
3、紙媒体か電子媒体かを問わず、全ての企業関連の文書を保存すること。これは、雇用契約書から、就業証明、給与支払報告書、税報告書、解雇通知書などを含み、その後労働者の受けるべき権益を要求する基礎になる。
References
1.《勞資審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!zh-Hant-HK
2.香港法例第57章《僱傭條例》僱傭保障Q&A http://www.labour.gov.hk/tc/faq/cap57k_whole.htm
3.勞資審裁處表格 http://www.judiciary.hk/tc/crt_services/forms/labour.htm
4.勞資審裁處條例 https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap25!en
5.第338章 《小額錢債審裁處條例》https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap338
6.Cap. 347 LIMITATION ORDINANCE https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap347!en?INDEX_CS=N
7.Cap. 149 General Holidays Ordinance https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap149
8.判例集 https://www.elegislation.gov.hk
雇用条例の全文は、以下の二つのリンクが有用である。日本語は、完訳済みである。
English: https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap57
Chinese: https://www.labour.gov.hk/tc/public/ConciseGuide.htm
Statements
This series of articles about HK labor issues is written by Japanese due to supporting Japanese workers in Hong Kong where differs from Japanese working environment. Moreover, there is no labor consultant for Japanese workers in Hong Kong while facing blood sucking Japanese recruit agents and overseas Japanese 'Black Kigyo' (Evil Companies).
Any part of this report may be disseminated without permission, provided attribution to Ryota Nakanishi as author and a link to www.ryotanakanishi.com is provided.
注意:香港には、日本人のための労働相談所はない。また、総じて労働問題対策の出版物は皆無に等しい。日本語だけでは、極めて危険な状態である。香港でも会社の人事部、就職エージェントや企業の人事コンサルタントなどはすべて行為において資本家側であり、自分たちも労働者であるのに、むしろ労働者と敵対するので、要注意だ。会社外の労組へ相談するべきだ。香港では日本人で労働問題を論じている者がいないと言うことはできない。私は永久に労働者階級のために階級闘争を戦う。階級闘争とは、労働者の階級的利害のための一切の社会的な闘いである。
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