コロナ雇用対策: 労働就業対策という体裁で、資本家への直接給付が孕む大問題
2020年4月9日、香港政府が第二弾防疫抗疫基金支出による、800億HKDの「保就業」プランをコロナ雇用対策として発表したが、即日香港の最大手の体制派と反対派のメディアを始めとして、その5つの欠陥が指摘され批判されたのは、全市民にとっては肯定できるメディアの正しい責任ある反応である。また別の意味では、それを例え日本の安倍晋三政権とその御用メディア群の盲目的な大政翼賛的な情報操作が発動したとしても政治的利益にとても還元できない程、その香港政府の今回の労働政策のネオリベラリズムが著しくあからさまで悪質なものである事を証明している。
労働者階級への一律の直接給付が、コロナ蔓延下では最も迅速な受給を確保する。自己申告制や、資本家企業を介しての労働者への給付というのはどちらも中間搾取、委託先、官僚の天下り先の機関介在による利権の構図を構成する。自己申告制による委託先機関、部分であれ代行による管理費、手数料の利権が発生し、その分がさらに別途税金で賄われるのが社会の現実である。
今回のケースは、資本家企業を介しての労働者への給付という体裁であるが、実際は労働者ではなく、資本家企業への直接給付であり、企業の自己申告制であり、管理費、手数料の利権も発生する。しかも、企業へは6月申請受付、6月末支払いという香港の無能官僚を基準にすれば破格のスピード対応である(それでさえ全然遅すぎるが)。
香港労働政策を貫く致命的な教条主義:トリクルダウン
香港政府のドグマであるトリクルダウンの盲信的な産物がこの政策である。企業から余った利潤が労働者へ自動的に滴り落ちるから、企業を助けることが労働者を助ける事であるという詭弁と仮象そのものである。実際は、労働者の為という名目体裁による子供騙しであり、資本家への一方的な利益献上であり、格差拡大、及び労働圧縮と労働強化の搾取形態を助長する。徹頭徹尾、ネオコン、ネオリベである香港政府はあくまで資本階級に奉仕しているだけである。
これが、体制派の困難と低迷、そして反対派の勢力拡大を後押ししているのである。労働者階級の利害と真っ向から対立している香港政府を愛国主義で体制派支持に無条件的に誘導する試みはプロパガンダ的に破綻している。
この様に個々の労働問題とその社会的総体、個々の労働問題の解決の過程の総体及び上部構造の反作用としての労働政策の総体は、そのまま政治経済問題=社会問題である。個々の分裂した派閥やカラーではなく、社会の絶対的多数派である労働者階級の利害こそが全ての正しい政治経済政策及び社会運動の根幹、基準である。
800億HKDの「保就業」プランの重大欠陥とは?
ここでは、政策的欠陥を知る事は、そのまま香港の人事部の手口、思考を知る事になる。
1、6月から申請受付を開始して、本年度の任意の1ヶ月間の1ヶ月分の総賃金を基準として選択でき、半年間一人当たりの労働者の上限の賃金額を1万8千HKDとし、その50%を企業へ6月末には支給するというが、この受給の限度額が、それを超過した高額者への減給を招来する危険性がある。
2、日本では、考えられないが、香港では無給休暇の手口がより露骨に正社員へも応用される。日本国内の想像を超えた悪質な手口が存在している。コロナ蔓延下で存分にこの人事部の手段が利用されている。つまり、この場合、1万8千HKDの労働者に半月無給休暇を命じて、「保就業」プランでその50%の9千HKDを受給して本来支払うべき賃金と相殺できる。これで、資本家は、その間の当該労働者による当月の労働の生み出した剰余価値を実質的には相応の賃金を支払わず、給付分を利用する事で、丸ごと搾取できる。政府の手当てによる完全な労働の搾取、これこそ資本家の夢である。この点に最も本政策の階級的本質が表れている。
3、実は給付を受け取る企業は解雇できないという訳でなくて、人員規模の維持しか要求されていない。これでは、短期的にまず上限の賃金額1万8千HKD以上の労働者をリストラ以外の理由で解雇して、上限の賃金額1万8千HKDまでの低賃金労働者へ置き換える事で人員規模を揃える事を考える危険性がある。これは、受給後にさらにリストラ以外の理由で解雇して、低賃金の労働者へ置き換えるという事で最高額の受給を確保し続ける繰り返しの手口を採用する可能性が高い。これは、他の給付における手口でも散見される香港企業の人事部の悪質な傾向である。
被雇用者を、給付を受け取る駒としか見ないところまで香港の労務管理は堕落と腐敗に満ちている。日本の比ではない。これを黙認している共産党は社会主義にあらず。
4、香港の管理側と労働側の結託は、日本以上に自覚的かつ、社会的に奨励されているといえるほどである(階級合作;階級協調主義)。この場合、経営側と労働者、実際は人事部と労働者側が結託して、ある労働者の賃金を上限の賃金額を1万8千HKDまで名義上引きあげて、「保就業」プランでその50%の9千HKDを受給して、その一部のみをその協力した労働者へ渡し、その他を着服するという手口である。これは、羅致光が昇級と称している効果の内実であるが、実に腐っている。これは、刑事犯罪を構成する詐欺だからだ。
5、お友達と資本家がネットを介すなりして大量に結託して、まず全員既存の職員を解雇して、全てお友達を採用し、MPFの手続きをし、人員規模を維持して給付を最大限受け取る手口。これも刑事犯罪を構成する詐欺である。
6、羅致光が香港の労働者階級を最も呆れさせるのは、最初から調査や審査を放棄して、違反があれば労働者による摘発に全面的に依存する放任主義の体制を採用している事である。政府による監察、監査の機能を放棄している。例えば、労働者各個人は、香港において自身の企業の人員規模を正確に把握しているわけではないし、企業の総賃金額も、各人の賃金額も把握していないし、「保就業」プランの受給企業名と受給総額の公開だけでは、労働者各個人に政府による監察、監査の機能の代行など能力、権限において到底できない。
7、MPFを支払うフリーランスも対象となるというが、18歲以下及び65歲以上の労働者、そしてパートタイムのホームヘルパー、一部外国人労働者、ライセンスを有した個人小規模販売業者などはMPFの支払い対象にならない。これらの実質的な労働者、半プロレタリア層が排除されている。
8、この政策に伴って、効果を発揮するとされている総合社会保障援助計画の単身の資産上限を2倍の6万6千HKDにするというが、今回の給付の賃金上限限度額の1万8千HKDの賃金で、5年間勤務して、遣散費(けんさんひ)、1ヶ月分の解雇予告手当ても含めると仮定すると7万8千HKDにはなってしまうので、以下に具体的に算出すると簡単に対象外になるというのは事実であり、自分で再確認できる。
遣散費(けんさんひ)は、整理解雇の場合受給できるだけでなく、いわゆる目下蔓延している業務停止(停工)の法定概念に該当する事で対象になるが、辞職した場合や懲戒解雇としての即時解雇の場合、権利を喪失する。
業務停止(停工)
この概念は、資本家が業務を、仕事を労働者に与えない日々を数えることになる。雇用条例第31E条では、そのように仕事を与えられない日々が連続四週間の内本来仕事をするべき日の合数の半分を超えるか、二十六週間以内に、本来正常であれば仕事をするべき日の3分の1に妥当する場合、業務停止、レイオフと見なされる。日本でもレイオフを悪用した職場のいじめの手口が殊に非正規雇用労働の領域で自主退職を促す手段として存在している。これは、リストラ、事業閉鎖とは別の概念であることに留意がいる。
計算方法は、月給制の被雇用者は、最後の月の賃金の3分の2かける勤務年数である。一年に満たない勤務期間の部分は、比例に応じて計算する。 つまり、検証すると、最後に月の賃金は、1万8千HKDとして、その3分の2は、1.5で1万8千HKDを割ると、1万2千HKDである。そして、それに勤続年数の5をかけると、6万HKDである。さらに、賃金1ヶ月分の解雇予告手当とすると、合計で7万8千HKDになるという試算は合法的である。
9、労働者各個人の実際の雇用契約、ID、そしてMPFの支払い状況とは、労働者への直接給付ではないので紐づけられていないので、実際に労働者の状況がどうなのか、そして労働者へと給付が資本家の手を介して渡されたのかの確認の機制自体がない。つまり、労働者受給の必然性とその政府による監察の仕組みがこの政策には欠如している。この空間を最大限に悪用するところに香港特有の人事部の悪辣な手口と思考、傾向が存在成立している。
結論 「保就業」プランは労働者本位か?資本家本位か?
以上が、指摘された「保就業」プランの重大欠陥の総括である。「労働者の雇用確保の為」という名目体裁下の本質は、それとは真逆の本質のものであり、他ならぬ資本家への補助、しかも完全な賃金支払い免除のフル搾取を実現させることのできる政策である事が明白であり、労働問題と労働政策、正にここに階級的な悪質さ、階級的な結託の奨励、トリクルダウンの詭弁、体制派の零落と反対派の勢力拡大などの政治的方向へ作用する労働者階級の怨恨の原因を感じ取る事ができる。これに対して、愛国主義でこの不満を労働者階級に無視する様に強いて、盲目的にこのような香港政府を支持する事を強要するのは無理である。逆効果でしかない。これでは、マカオの様な安定した、社会福祉の共生都市としての一国二制度の香港建設、脱植民地主義の反ネオリベ改革はいつまでも実現できない。悲しい事に、この様な労働者階級の利害を政治的な歪曲なしに、そのまま純粋に体現できる政党や政治勢力が香港には皆無である。労働組合でさえ、未だ労働三権を実現できない有様なのだ。
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